2014年08月15日

「伏見の吟醸酒房・油長」2014.1.16

 京都市伏見区・大手筋商店街。その中程に「吟醸酒房・油長」と言う酒屋がある。入口には伏見の数々の銘柄の他、焼酎、ワインなどがぎっしり並べられている。一見したところ間口の広い普通の酒屋だが、店内に入ると少し奥まった部屋の右手に長目のカウンターが見える。いつも何人かの客がカウンターに座り、思い思いの伏見の酒を味わっている。カウンターの前には白髪でいかにも上品そうな店の主人とその息子さんが立ち、ついだ酒についてその造りや味わいを説明する。
 この油長を知って足掛け15年になる。

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 カウンターに座ると主人が前に立ち、伏見の銘柄を網羅したリストの冊子を差し出す。その数の多さに驚く。蔵元19社の吟醸・大吟醸を中心に70〜80種。どれを選んでいいのか迷っている客には主人がサッとお薦(すす)めの酒を提示する。

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 「唎(き)き酒3点セットがあります。今の時期では○と○。○もしぼり立てでいいと思います。グラス一杯で飲んでもらっても結構です」
 常連でない客は大抵主人のお薦(すす)めに従う。アテとして小さく賽(さい)の目に切った豆腐と梅クラゲなどが出される。チビチビと酒を味わい、次の三種のお替わりをする。
 15年前、妻とフラリと入った。このカウンターが気に入り、年に数回「油長」を訪れるようになった。何度も通ううちにご主人にも顔を覚えてもらい、店内で催される伏見の蔵の唎き酒会の案内状をもらうようになった。「油長」近くにある「蒼空」の蔵、藤岡酒造もご主人から教えてもらった。藤岡酒造に行く時は通りからそっとカウンター内をのぞき込み、お姿を見かけると「お元気そう」と妻とことばを交わし合う。

藤岡酒造に年始のごあいさつに行った帰り、久しぶりに「油長」に立ち寄った。カウンター内には息子さんだけがいた。奥にある小部屋をのぞくと、入口近くに椅子に座っているご主人の姿が見えた。「ちょっとごあいさつに行ってくるヮ」妻に言いご主人の元へかけ寄った。孫の男の子の相手をしていたご主人は私達のためにわざわざカウンター内に来て三つのグイ吞みを並べた。

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 「『英勲』にごり酒と『月桂冠』の荒ごし原酒にごり酒がいいですよ」いつもの口調でお酒を薦められた。
 にごり酒は少し苦手だがご主人の薦める酒にまちがいはない。すぐさまそれに決めた。「私もそれにする」妻も同調した。「あと同じ『英勲』で無圧搾り純米大吟醸。飲み比べてみる」差し出されたリストを見て、妻は即座に決めた。旅行先とか服の品定め時とか即断できないのに、地酒となると即決する。
 三種類の酒はどれも口当たりがよくスッキリして美味しかった。
 さっきまでおじいちゃんに相手してもらっていた男の子が店内に来て、常連さんの差し出す酒瓶のラベルを見て名前を言い当てている。
 「お孫さんお幾つになられましたか?」
 「3才になりました。上の女の子は小学校5年です」ニコリと笑いながらご主人が答えた。レジでおばあちゃんやお母さんの手伝いをしていた女の子がいつの間にかカウンター内に入り、グイ吞みを運んだり、出されたお酒の瓶を片付けたりしてパタパタと手伝っている。家族みんなでお店を切り盛りしている。このアットホームな雰囲気が何とも心地よい。そんな光景を眺めながら酒を味わっているとゆったりとした気分になり、カウンターを離れがたくなる。
 「退職したら、『油長』と『蒼空』の蔵で一日お酒を飲んでゆっくりしていたい」
 そばにいた妻がポツリとつぶやいた。
posted by yoidore at 11:31| Comment(0) | 連載