2014年08月14日

「第5回上方日本酒ワールド2014」2014.5.7

朝からどんよりと曇っていたが、昼過ぎには細かい雨が降り出した。
「雨の日本酒ワールドは初めてやなあ」会場の大阪天満宮へ向かうタクシーの中で妻に語りかけた。
会場に着く頃には雨脚はさらに強まった。
日本酒を愛する飲酒店と地酒蔵元がタッグを組んだ「日本酒屋台祭り」。今年で早くも5回目を数える。
 天満宮の境内は、雨にも関わらず、大勢の地酒ファンで埋め尽くされ、それぞれが好みの酒を求めて17の屋台テントを行き交っている。
 受付近くで市内の九条の日本酒バー「このや」を営むチナッちゃん夫婦に出会った。二人は妻の若かりし頃の教え子だ。二人の愛娘も一緒で、お堂の軒先にシートを敷き、数人の知り合い達と飲んでいる。
 「朝一番に来てもうだいぶ飲みました」チナッちゃんは妻をはるかに凌ぐ酒豪なのだ。それほど酔っぱらった風情でもなく、少し赤くなった顔でニコニコ笑っている。
 先に来ていた酒友、大内さんと合流する。もう少しすれば妻の姉、清子さんとそのお友達も会場に駆け付けるはずだ。
 拠点をチナッちゃん達のシート横に決めた。ここなら雨もそうかからないし、すぐそばに大きな石組みがあり、酒のグラスやアテも置ける。
 「そしたら酒とアテを買いに行こう」
 すぐ近く、本部前に並ぶ屋台の酒を飲むことにした。
 雨は小止みになった。
 滋賀、木之本、富田酒造の「七本槍」、純米渡船を買い求める。妻は隣の屋台の「秋鹿」を注文した。「秋鹿」とタッグを組む「高太郎」という店の「讃岐メンチカツ」が旨そうだ。少し丸みを帯び、中に具がいっぱい詰まっている。揚げたてを紙袋に入れてもらった。大内さんも「七本槍」にしたようだ。
 「さっきよりだいぶ人が減りました」大内さんは、私達より30分以上早く来ている。
 「雨が降っていない午前中にドッと来たんでしょう」
 拠点で飲んでいると、清子さんから妻にメールが入った。
 「もう着いたみたい。捜してくる」妻が私の空になったグラスを持って出かけた。しばらくすると清子さんと彼女のお友達を連れて戻ってきた。
 「ハイ、次のお酒」差し出されたグラスは半分しか酒が入ってない。
 「エエ!?どういうこと?」「帰ってくる途中半分飲んでしまった」妻が笑いながら言う。
 80mlのグラスに入った高知の「亀泉」は、あっというまになくなった。
 清子さん達も「七本槍」とアテの「ジュークルート豚バラとソーセージのキャベツ煮込み」をしっかり買い求めてきている。清子さんのお友達は、小学校の元同僚で、家も近所同士だそうだ。
 「「風の森」とか「山鶴」のファンです」お友達の女性も相当地酒がお好きなようだ。

上方2.JPG

 ワイワイ言いながら飲んでいると酒はすぐになくなる。
 「次、行ってきます」「私も」姉達と妻は、アテを後ろの石垣に置き、人混みの中へ消えた。
 「留守番お願いします」大内さんに頼み、私も酒を求めに境内奥のテントへ足を向けた。
 雨対策として大きなテントを設け、その中にテーブルを並べた所は人でいっぱいだ。あるテントの前では数人の若者が酒のボルテージが上がり、気勢を上げている。
 「こんにちは!」福島聖天通り、井上酒店の主人が声をかける。よく地酒を買いに行く店だ。
 境内の奥の方も結構賑わっていた。石川の「宗玄」と、アテに「うつつよ」という店の「日向夏のニョッキ自家製オイルサーディンと野菜のトマト煮」を買って帰る。
 妻たちは戻っていて、三重の「るみこの酒」を飲み、上機嫌だ。
 酒のピッチも佳境に入り、清子さん達が買い出しに行く間合いが早くなってきた。
チナッちゃんはブルーシートにどっかと坐り込み、腰を据えて飲み続けている。
 「腹ごなしにちょっとそこらを回ってきます」フラフラと境内奥の方へと歩き始めた。
 各テントのアテは完売しているところが多い。
 境内の北東の端に「松尾社」という祠がある。酒造りの神を奉る京都、嵐山近くの松尾大社の分社だ。受付でもらったガイドブックの表紙の裏に「松尾さんについて」と書かれた項目があったのを思い出した。見ると、「松尾社に日本酒発展と商売繁盛を祈願し奉納するする神事として、今回のお祭りを開催しております。本日朝9時に参加店舗と蔵元でご祈祷とお酒の奉納を済ませてまいりました」と記されている。
 そういうことだったのか。恥ずかしながら、なぜ「日本酒ワールド」が大阪天満宮で催されるのか詳しいいきさつについてよく分からなかった。神様にお神酒はつきものなので天満宮なのだろうぐらいの知識だった。やっとこの催しと天満宮の関わりを知った。
 松尾社の隣のテントで愛媛の「石鎚」と「桜海老と新生姜の和風しゅうまい」のアテを買い込み、拠点に戻った。
 清子さん達と途中で出会った。また次の酒の買い出しに行くようだ。
 「そのアテさっき買いました。おいしかったです」そう言いながらサッと通り過ぎていく。
 チナッちゃんのグループがシートをたたみ、帰る用意を始めた。
 「最後に気になってる「与右衛門」だけ飲んで終わりにするワ」岩手の酒で昔よく飲んだ。
  「そろそろ帰ろうか」大内さんと妻に声をかける。
 「私達はこれからもう少し」清子さんとお友達はまだまだ飲み足りないようだ。
 「あまり飲みすぎないように」二人に忠告し、境内を出た。
 雨は降ったりやんだりしている。人の群れは少し減ったが、これからやってくる人も結構多い。
 雨の中の「日本酒ワールド」だったが、今年も何とか無事に恒例の神事を果たし終えた。
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「東京都東村山市の地酒蔵を訪ねる」2014.3.31

東京の大学に通っている娘が暮らす埼玉県所沢市近くに東村山という町がある。
ここに旨い地酒の蔵がある。「屋守」という銘柄の酒で、大阪、福島聖天通りの「旨味食堂」という居酒屋で初めて飲みファンになった。スッキリとした味わいの酒で、バランスが良く、どんな料理にも合う。初め「屋守」を「やもり」と読み、てっきりそうだと思っていたが正しくは「おくのかみ」だった。しかし、ラベルには何とあの「ヤモリ」の絵が添えられているのだ。
地酒好きの両親に娘がこの蔵の酒を送ってきてくれたことがある。「屋守」ではなく、「東村山」という酒だった。少し米っぽいが、この酒もなかなかの味である。
妻は昨年、娘がハイツに入る時上京し、引っ越しの片づけが終わった後、娘と二人でこの蔵を訪れた。蔵はあいにく休みで外から眺めただけだったそうだ。・
春休み、旅行を兼ねて娘に会いに行くことにした。一泊目は娘と妻と三人で秩父に泊まり、二泊目は娘の住むハイツに泊まる。三日目は東村山のこの蔵を訪ねる。そんな旅程を組んだ。
旅の三日目、朝9時半には西武新宿線、東村山駅に着いた。タクシーで「屋守」の蔵、豊島屋酒造に行く。

金婚1.JPG

事務室に入ると女将さんが出てこられた。
「大阪から「屋守」を求めて来たのですが」
「『屋守』は小売りしてないのです」。女将はそう言って「屋守」を取り扱う酒販店を記した紙を私達に持って来てくださった。
「『東村山』か『金婚』ならお売りできます。朝からですけど試飲されますか?」「ぜひお願いします」
女将さんはカウンターに「東村山」と「金婚」の幾種類かの瓶を並べた。
「東村山」の味は大体分かっていたので先に「金婚」を飲んだ。フルーティな味わいで美味しい。
「『金婚』は『屋守』に近い造りです」
「ここの蔵は古くからやっておられるのですか」
「創業400年になります。江戸の神田・鎌倉河岸で初代が酒屋と一杯飲み屋の商いを始めたということです。この酒蔵は昭和の初めに造られました。水は富士山から流れる伏流水を使っています」
「へエ!そうなんですか?こんな所にまで富士の伏流水が流れているのですね」
「東村山」も飲ませてもらい、女将さんと話を交わした。
「金婚」が美味しかったので純米無濾過生原酒を買うことにした。妻は「東村山」の純米吟醸を注文した。
「全国の酒蔵を巡ってエッセーをブログに載せているのですがよろしいでしょうか?」「どうぞどうぞ、蔵の庭にあるタンクと煙突を他の方も載せたりされています」
門を入った時、正面に「金婚」の大きなタンクと長い煙突が目の前にそびえていた。

金婚2.JPG

豊島屋酒造がある辺りは駅から少し離れており、畑地などが拡がるのどかな所だ。
北の方に小高い丘陵地帯が見え、雑木林になっている。駅でもらったマップには八国山緑地とあり、尾根沿いに遊歩道もあるようだ。
「あの辺りを少し歩いてみたい」。念願の蔵に来れて満足そうな妻が言う。
武蔵野台地をそぞろ歩くのもいいだろう。
駅とは反対方向の丘陵の方へとゆっくりと歩き始めた。
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「秩父・武甲酒造」2014.4.1

東京の都心池袋から西武秩父線の特急で80分。渓谷沿いに電車は埼玉県の北西に拡がる山塊を目指して走る。山あいの盆地に古い歴史と文化に彩られた秩父の町並みがある。
町の南に標高1295mの武甲山がそびえ立つ。町の中央には創建2100年と関東でも屈指の歴史を誇る秩父神社の境内が拡がり、町の人々の信仰を集めている。江戸寛文年間から続く冬の秩父夜祭は打ち上げ花火も上がり豪華絢爛な祭りとして有名だ。
 秩父神社のすぐ近くに創業257年の歴史を持つ武甲酒造がある。
東京の大学に通う娘に会いに行った折、秩父に足を延ばし、武甲酒造を訪ねた。
前夜は新木鉱泉旅館という鄙びた温泉旅館に泊まり、朝一番に宿の送迎車で武甲酒造まで送ってもらった。まだ午前10時過ぎで、広い店内には誰もいない。
代々続いてきたと思われる薄暗い店内の天井には黒々とした太い棟木が幾本も走り、屋根を支えている。奥から店の主人が現れ、私達に応対してくださった。主人は話好きな方で、いろいろな種類の酒の造りについて説明を始めた。

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「どのお酒がいいとか美味しいということではなく、要するにそれぞれの料理に合った酒を飲むとよいということなのです」自分の持論を述べられた。
「わざわざ大阪からいらしたのだから、蔵の中にある井戸をお見せしましょう」店の奥に連なる広い蔵の中へと私達を案内してくださった。
「武甲山の伏流水が今も湧き出ています。平成の名水百選にも選ばれた水です」
井戸の中を覗くとかなり深い所に滾々と地下水が湧き出ているのが見えた。

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「蔵の創業は江戸の中期、宝歴3年(1753)です。現在の蔵は八代目が建てたものが、そのまま残っています。店舗の建物はさらに古く、七代目からのものです」
もう一度店内に戻り、上を見上げた。高い天井には「武甲」と金文字で書かれた大きな看板や、昔酒造りに使ったと思われる、水を汲み上げる滑車のようなものが飾られていた。
土産に買う酒を主人の説明を聞きながら選んだ。
「『武甲正宗』というのが代々造られてきた酒です。今はいろいろの造りでそれぞれ名前を付けています」
「昨日の夜、旅館の部屋で飲んだ酒が美味しかったです」。妻が西武秩父駅のそばにある酒屋で「武甲酒造」の二合瓶を買っていた。その「花ちちぶ」という純米生酒を妻は覚えていて、店内の棚から持って来てくれた。 
「私はこれにする」。妻が選んだのは特別純米無濾過生原酒「のんべえ」という自分に似つかわしい名前の酒だった。
ご主人にお礼を言い店を出た。
道路を渡り、蔵全体を撮影する。
秩父往還に建つ幾棟かの黒壁塗りの建物の中でも、武甲酒造は一際異彩を放ち、遠くに見える武甲山に対峙するかのように堂々とした構えで建っていた。
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posted by yoidore at 12:31| Comment(0) | 連載