2014年08月14日

「千葉県、佐原・『東薫酒造』」2014.7.29

 息子・娘に会いに千葉を旅行した時、香取市、佐原の「東薫酒造」を訪ねた。
 東京からJR総武本線と成田線を乗り継ぎ、佐原には午後二時過ぎに着いた。
 佐原は「北総の小江戸」と呼ばれ、古くから利根川水運の中継地として賑わった町だ。黒壁の蔵を持つ商家や千本格子の町家が小野川沿いに軒を連ね、江戸時代の面影を残している。旅雑誌に載っていた町並みを見て、ぜひともこの町に行きたいと思った。
 「『東薫酒造』という酒蔵もある。日曜日も蔵は開いていて、酒蔵見学も出来るそうやで」妻に告げた。
 小野川沿いの町並みを歩き、海産物の干物や佃煮などを売る元醤油蔵や民芸品の店で土産を買ったりしていると三時過ぎになった。

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 「蔵見学は4時までだから、先に酒蔵に行こう」
 伊能忠敬旧宅など見どころがまだ残っているが、小野川沿いの中心街を離れ、南西へと伸びる道を辿った。

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 酒蔵に着くとちょうど最終見学の時間だった。案内の男性に導かれ、薄暗い蔵に入る。目の前に大きなタンクが幾つも並んでいる。「6681リットル、一升瓶3710本、7,420,000円」と書かれた紙がタンクに貼ってある。
 「一日一升飲んでも10年はかかります」具体的な説明にやっと実感が湧いた。
 蔵の二階に上がる。低い天井の、広い板敷きの部屋だ、床板の所々に八角形に切った大きな穴が開いている箇所がある。
 「ここはさっきのタンクの蓋に当たる所です。覗くと蓋が見えるでしょう」
 隣の狭い部屋に行く。幾本かの酒瓶を並べたガラスケースの前で案内の男性が説明する。 
 「昔は佐原には35軒の酒蔵がありましたが、今は2軒だけになりました」
 ガラスケースの上には何枚もの賞状が並べられている。
 「この『叶』という大吟醸酒は全国新酒鑑評会で今年も含めて14回金賞を受賞したお酒です。一升瓶で原価、1万5千円です。及川恒男という南部杜氏によって造られました。『十人の口に合う酒』という意味で『叶』と付けられました」男性は漢字の「十」と「口」を指さしながら説明した。
 「隣の酒は『夢』という大吟醸ですが、精米度が少し低く、一本5千円です。『叶』と合わせ、『夢が叶う』酒です」男性は慣れた口調で語り続けた。
 一階に降り、酒造りの古い道具を見学した後、中庭に戻り、いろいろな種類の酒を試飲した。「叶」だけは有料で、グラス一杯300円したが、やはり蔵の人が自慢するだけあってコクのある旨い酒だった。
 土産に「卯兵衛」という純米吟醸酒と、「東薫」純米吟醸原酒の720mlを買った。
 東薫酒造は文政八年(1825)創業だという。
 水郷地帯の良質の米と水運に恵まれ、170年間酒造りを続けてきた。大阪ではあまり見かけない酒だが、蔵人が誇りを持って世に送る名酒だと思う。
 江戸の面影を色濃く残すこの佐原の地で、いつまでもこの名酒が醸され続けることを願った。
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「大阪地酒天満大酒会」2014.5.27

 新聞の催し物欄に「大阪地酒天満大酒会」なるものを見つけた。
5月25日、日曜日、天満橋1丁目のOAP(大阪アメニティパーク)特設会場、11時から16時までとある。
 「大阪の酒蔵12軒が出店するらしいで、これは行かないと」妻に言った。
 「中間テスト頑張って作るワ。問題できたら行く!」妻は朝からパソコンの前に座り続けた。
 テスト問題が完成したのは結局午後2時半過ぎ。OAPまでタクシーを飛ばすことにした。
 桜の宮公園近くの大川西沿いにあるOAPタワー1階の屋外特設会場は、民謡の唄と踊りで大いに盛り上がっていた。
 本部テントでチケット100円券10枚綴りを2冊買う。
 「80mlのグイ呑みは300円です。お酒は1杯100円から300円のものまでいろいろあります」案内の人が説明した。
 時間はあと1時間。会場はそれでもまだ、大勢の日本酒好きの人々で賑わっている。

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 「あまり知らない蔵の酒から飲もう」会場入り口にある「清鶴」のテントに行く。二人同じ酒を二杯だとチケットもすぐなくなり、多くの種類の酒を飲めないので一杯を二人で分け合うことにした。
 純米吟醸を選んだが、少し米っぽい味だ。パンフレットをもらう。
 「ああ、摂津富田の蔵ですか、前に行ったことがあります」酒を注いでもらった兄ちゃんに言った。でも、その時は夕方遅くで、すでに蔵は閉まっていた。
 続いて、その先にある「三輪福」という酒のテントに行く。純米酒はそんなに米っぽくなく、スッキリして美味しかった。
 「蔵はどこにありますか?」「岸和田です」パンフの地図を見ると、岸和田の東、久米田近くにある井坂酒造場だ。
 「知りませんでした。また一度蔵に行かせてもらいます」蔵の女将らしき人に告げた。
 「こんにちは!」妻に一人の男性が声を掛けた。
 「エエ!?何でまた?」妻が驚きの声をあげた。そばで二人のやりとりを聞いていると、どうやら妻の学生時代の同窓生のようだ。
 「このOAPのビルで会合があって帰りにちょっとのぞいてみたんです」二人はしばらく懐かしげに立ち話をした。
 向かいのテントに移動する。
 「秋鹿」、「片野桜」と大阪を代表する名酒の蔵はどちらも完売し、すでに後片付けが始まっていた。
 「さすがやなあ、でも、どっちもよく近くの居酒屋で飲むからいいか」
 その向こうにある「國乃長」の蔵に行く。さっきの「清鶴」と同じ摂津富田の蔵だ。店頭に並ぶ幾本かの酒瓶のそばに貼り紙がある。
 「けさたんとのめやあやめのとんたさけ」
 「これ回文なんですね、前から読んでも後から読んでも同じ文になるんですね」妻が女将さんに言った。
 「よくご存知ですね」「前に蔵に行った時、塀の角に貼ってました」
 続いて私も声を掛けた。
 「私はカルチャー講座の寺内町歩きでも蔵に行ったことがあります。地ビールも造っておられるんですね」
 「隣のテントで販売しています。一杯どうですか」
 ビールではなく純米酒を注いでもらった。
 左隣に「松花鶴」という名の地酒の蔵がある。
 「どこのお酒ですか?」「藤井寺です」「ああ、藤本酒造ですね、前に一度新酒会の時行かせてもらいました」
 2〜3年前に藤井寺在住のエッセイスト・川上恵先生の案内で蔵を訪れた。
 「あの時、タンクからじかに新酒を注いでもらいました。美味しかったです」
 「今日は新酒ではないけど一杯飲んで行ってください。「いのまなり」という名のお酒もあります」ご主人がにこやかに酒を勧めた。
 「井真成(いのまなり)は藤井寺出身の遣唐使で、唐で病気になって死んだけど、平成の時代に中国で彼の墓誌が見つかり、故郷の藤井寺に墓誌が里帰りしたんや」妻に井真成の生涯を説明した。
 隣は「元朝」という地酒蔵だ。純米吟醸酒や純米酒はすでに売り切れ、残っていた大吟醸酒を注文する。なめらかな味わいで結構旨い。もらったパンフレットを見ると、これも岸和田の酒だ。紀州街道沿いの古い蔵のようだ。
 「岸和田に二軒も酒蔵あるんやから、一遍行ってみたい」「岸和田はカルチャーで何回も行ってるので、町も案内できるで」グイ呑み片手に残りもう一杯の酒蔵を求めて歩く。
 そろそろどの蔵も完売に近づき、店じまいを始めている所が多い。
 「チケット残り300円分、どのお酒にする?」
 「枚方の「利休梅」も飲んだことあるし、やっぱり最後は河内長野の「天野酒」にしよう」天野酒・大吟醸を二人で分け合った。
 和らぎ水は時々飲んだが、アテなしで酒ばかり飲んだので一時間足らずでも、だいぶお酒がまわってきた。
 「そろそろ引き揚げるとしようか」「もう満足満足」妻も堪能したようだ。
 最後に会場全体の様子をカメラに収めた。高層ビルの谷間で日本酒を楽しむ会もまたいいものだ。

天満2.JPG

 帰りは大川端を歩き、jR環状線、桜宮駅に出ることにした。大川に架かる源八橋から川面を眺める。
 幾分火照った頬を爽やかな風がなでる。川べりの新緑が美しい。遠く向こうに大阪城の天守がポツリと見えた。
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「第5回上方日本酒ワールド2014」2014.5.7

朝からどんよりと曇っていたが、昼過ぎには細かい雨が降り出した。
「雨の日本酒ワールドは初めてやなあ」会場の大阪天満宮へ向かうタクシーの中で妻に語りかけた。
会場に着く頃には雨脚はさらに強まった。
日本酒を愛する飲酒店と地酒蔵元がタッグを組んだ「日本酒屋台祭り」。今年で早くも5回目を数える。
 天満宮の境内は、雨にも関わらず、大勢の地酒ファンで埋め尽くされ、それぞれが好みの酒を求めて17の屋台テントを行き交っている。
 受付近くで市内の九条の日本酒バー「このや」を営むチナッちゃん夫婦に出会った。二人は妻の若かりし頃の教え子だ。二人の愛娘も一緒で、お堂の軒先にシートを敷き、数人の知り合い達と飲んでいる。
 「朝一番に来てもうだいぶ飲みました」チナッちゃんは妻をはるかに凌ぐ酒豪なのだ。それほど酔っぱらった風情でもなく、少し赤くなった顔でニコニコ笑っている。
 先に来ていた酒友、大内さんと合流する。もう少しすれば妻の姉、清子さんとそのお友達も会場に駆け付けるはずだ。
 拠点をチナッちゃん達のシート横に決めた。ここなら雨もそうかからないし、すぐそばに大きな石組みがあり、酒のグラスやアテも置ける。
 「そしたら酒とアテを買いに行こう」
 すぐ近く、本部前に並ぶ屋台の酒を飲むことにした。
 雨は小止みになった。
 滋賀、木之本、富田酒造の「七本槍」、純米渡船を買い求める。妻は隣の屋台の「秋鹿」を注文した。「秋鹿」とタッグを組む「高太郎」という店の「讃岐メンチカツ」が旨そうだ。少し丸みを帯び、中に具がいっぱい詰まっている。揚げたてを紙袋に入れてもらった。大内さんも「七本槍」にしたようだ。
 「さっきよりだいぶ人が減りました」大内さんは、私達より30分以上早く来ている。
 「雨が降っていない午前中にドッと来たんでしょう」
 拠点で飲んでいると、清子さんから妻にメールが入った。
 「もう着いたみたい。捜してくる」妻が私の空になったグラスを持って出かけた。しばらくすると清子さんと彼女のお友達を連れて戻ってきた。
 「ハイ、次のお酒」差し出されたグラスは半分しか酒が入ってない。
 「エエ!?どういうこと?」「帰ってくる途中半分飲んでしまった」妻が笑いながら言う。
 80mlのグラスに入った高知の「亀泉」は、あっというまになくなった。
 清子さん達も「七本槍」とアテの「ジュークルート豚バラとソーセージのキャベツ煮込み」をしっかり買い求めてきている。清子さんのお友達は、小学校の元同僚で、家も近所同士だそうだ。
 「「風の森」とか「山鶴」のファンです」お友達の女性も相当地酒がお好きなようだ。

上方2.JPG

 ワイワイ言いながら飲んでいると酒はすぐになくなる。
 「次、行ってきます」「私も」姉達と妻は、アテを後ろの石垣に置き、人混みの中へ消えた。
 「留守番お願いします」大内さんに頼み、私も酒を求めに境内奥のテントへ足を向けた。
 雨対策として大きなテントを設け、その中にテーブルを並べた所は人でいっぱいだ。あるテントの前では数人の若者が酒のボルテージが上がり、気勢を上げている。
 「こんにちは!」福島聖天通り、井上酒店の主人が声をかける。よく地酒を買いに行く店だ。
 境内の奥の方も結構賑わっていた。石川の「宗玄」と、アテに「うつつよ」という店の「日向夏のニョッキ自家製オイルサーディンと野菜のトマト煮」を買って帰る。
 妻たちは戻っていて、三重の「るみこの酒」を飲み、上機嫌だ。
 酒のピッチも佳境に入り、清子さん達が買い出しに行く間合いが早くなってきた。
チナッちゃんはブルーシートにどっかと坐り込み、腰を据えて飲み続けている。
 「腹ごなしにちょっとそこらを回ってきます」フラフラと境内奥の方へと歩き始めた。
 各テントのアテは完売しているところが多い。
 境内の北東の端に「松尾社」という祠がある。酒造りの神を奉る京都、嵐山近くの松尾大社の分社だ。受付でもらったガイドブックの表紙の裏に「松尾さんについて」と書かれた項目があったのを思い出した。見ると、「松尾社に日本酒発展と商売繁盛を祈願し奉納するする神事として、今回のお祭りを開催しております。本日朝9時に参加店舗と蔵元でご祈祷とお酒の奉納を済ませてまいりました」と記されている。
 そういうことだったのか。恥ずかしながら、なぜ「日本酒ワールド」が大阪天満宮で催されるのか詳しいいきさつについてよく分からなかった。神様にお神酒はつきものなので天満宮なのだろうぐらいの知識だった。やっとこの催しと天満宮の関わりを知った。
 松尾社の隣のテントで愛媛の「石鎚」と「桜海老と新生姜の和風しゅうまい」のアテを買い込み、拠点に戻った。
 清子さん達と途中で出会った。また次の酒の買い出しに行くようだ。
 「そのアテさっき買いました。おいしかったです」そう言いながらサッと通り過ぎていく。
 チナッちゃんのグループがシートをたたみ、帰る用意を始めた。
 「最後に気になってる「与右衛門」だけ飲んで終わりにするワ」岩手の酒で昔よく飲んだ。
  「そろそろ帰ろうか」大内さんと妻に声をかける。
 「私達はこれからもう少し」清子さんとお友達はまだまだ飲み足りないようだ。
 「あまり飲みすぎないように」二人に忠告し、境内を出た。
 雨は降ったりやんだりしている。人の群れは少し減ったが、これからやってくる人も結構多い。
 雨の中の「日本酒ワールド」だったが、今年も何とか無事に恒例の神事を果たし終えた。
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「東京都東村山市の地酒蔵を訪ねる」2014.3.31

東京の大学に通っている娘が暮らす埼玉県所沢市近くに東村山という町がある。
ここに旨い地酒の蔵がある。「屋守」という銘柄の酒で、大阪、福島聖天通りの「旨味食堂」という居酒屋で初めて飲みファンになった。スッキリとした味わいの酒で、バランスが良く、どんな料理にも合う。初め「屋守」を「やもり」と読み、てっきりそうだと思っていたが正しくは「おくのかみ」だった。しかし、ラベルには何とあの「ヤモリ」の絵が添えられているのだ。
地酒好きの両親に娘がこの蔵の酒を送ってきてくれたことがある。「屋守」ではなく、「東村山」という酒だった。少し米っぽいが、この酒もなかなかの味である。
妻は昨年、娘がハイツに入る時上京し、引っ越しの片づけが終わった後、娘と二人でこの蔵を訪れた。蔵はあいにく休みで外から眺めただけだったそうだ。・
春休み、旅行を兼ねて娘に会いに行くことにした。一泊目は娘と妻と三人で秩父に泊まり、二泊目は娘の住むハイツに泊まる。三日目は東村山のこの蔵を訪ねる。そんな旅程を組んだ。
旅の三日目、朝9時半には西武新宿線、東村山駅に着いた。タクシーで「屋守」の蔵、豊島屋酒造に行く。

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事務室に入ると女将さんが出てこられた。
「大阪から「屋守」を求めて来たのですが」
「『屋守』は小売りしてないのです」。女将はそう言って「屋守」を取り扱う酒販店を記した紙を私達に持って来てくださった。
「『東村山』か『金婚』ならお売りできます。朝からですけど試飲されますか?」「ぜひお願いします」
女将さんはカウンターに「東村山」と「金婚」の幾種類かの瓶を並べた。
「東村山」の味は大体分かっていたので先に「金婚」を飲んだ。フルーティな味わいで美味しい。
「『金婚』は『屋守』に近い造りです」
「ここの蔵は古くからやっておられるのですか」
「創業400年になります。江戸の神田・鎌倉河岸で初代が酒屋と一杯飲み屋の商いを始めたということです。この酒蔵は昭和の初めに造られました。水は富士山から流れる伏流水を使っています」
「へエ!そうなんですか?こんな所にまで富士の伏流水が流れているのですね」
「東村山」も飲ませてもらい、女将さんと話を交わした。
「金婚」が美味しかったので純米無濾過生原酒を買うことにした。妻は「東村山」の純米吟醸を注文した。
「全国の酒蔵を巡ってエッセーをブログに載せているのですがよろしいでしょうか?」「どうぞどうぞ、蔵の庭にあるタンクと煙突を他の方も載せたりされています」
門を入った時、正面に「金婚」の大きなタンクと長い煙突が目の前にそびえていた。

金婚2.JPG

豊島屋酒造がある辺りは駅から少し離れており、畑地などが拡がるのどかな所だ。
北の方に小高い丘陵地帯が見え、雑木林になっている。駅でもらったマップには八国山緑地とあり、尾根沿いに遊歩道もあるようだ。
「あの辺りを少し歩いてみたい」。念願の蔵に来れて満足そうな妻が言う。
武蔵野台地をそぞろ歩くのもいいだろう。
駅とは反対方向の丘陵の方へとゆっくりと歩き始めた。
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「秩父・武甲酒造」2014.4.1

東京の都心池袋から西武秩父線の特急で80分。渓谷沿いに電車は埼玉県の北西に拡がる山塊を目指して走る。山あいの盆地に古い歴史と文化に彩られた秩父の町並みがある。
町の南に標高1295mの武甲山がそびえ立つ。町の中央には創建2100年と関東でも屈指の歴史を誇る秩父神社の境内が拡がり、町の人々の信仰を集めている。江戸寛文年間から続く冬の秩父夜祭は打ち上げ花火も上がり豪華絢爛な祭りとして有名だ。
 秩父神社のすぐ近くに創業257年の歴史を持つ武甲酒造がある。
東京の大学に通う娘に会いに行った折、秩父に足を延ばし、武甲酒造を訪ねた。
前夜は新木鉱泉旅館という鄙びた温泉旅館に泊まり、朝一番に宿の送迎車で武甲酒造まで送ってもらった。まだ午前10時過ぎで、広い店内には誰もいない。
代々続いてきたと思われる薄暗い店内の天井には黒々とした太い棟木が幾本も走り、屋根を支えている。奥から店の主人が現れ、私達に応対してくださった。主人は話好きな方で、いろいろな種類の酒の造りについて説明を始めた。

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「どのお酒がいいとか美味しいということではなく、要するにそれぞれの料理に合った酒を飲むとよいということなのです」自分の持論を述べられた。
「わざわざ大阪からいらしたのだから、蔵の中にある井戸をお見せしましょう」店の奥に連なる広い蔵の中へと私達を案内してくださった。
「武甲山の伏流水が今も湧き出ています。平成の名水百選にも選ばれた水です」
井戸の中を覗くとかなり深い所に滾々と地下水が湧き出ているのが見えた。

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「蔵の創業は江戸の中期、宝歴3年(1753)です。現在の蔵は八代目が建てたものが、そのまま残っています。店舗の建物はさらに古く、七代目からのものです」
もう一度店内に戻り、上を見上げた。高い天井には「武甲」と金文字で書かれた大きな看板や、昔酒造りに使ったと思われる、水を汲み上げる滑車のようなものが飾られていた。
土産に買う酒を主人の説明を聞きながら選んだ。
「『武甲正宗』というのが代々造られてきた酒です。今はいろいろの造りでそれぞれ名前を付けています」
「昨日の夜、旅館の部屋で飲んだ酒が美味しかったです」。妻が西武秩父駅のそばにある酒屋で「武甲酒造」の二合瓶を買っていた。その「花ちちぶ」という純米生酒を妻は覚えていて、店内の棚から持って来てくれた。 
「私はこれにする」。妻が選んだのは特別純米無濾過生原酒「のんべえ」という自分に似つかわしい名前の酒だった。
ご主人にお礼を言い店を出た。
道路を渡り、蔵全体を撮影する。
秩父往還に建つ幾棟かの黒壁塗りの建物の中でも、武甲酒造は一際異彩を放ち、遠くに見える武甲山に対峙するかのように堂々とした構えで建っていた。
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