2014年01月13日

「京都・伏見『藤岡酒造』再訪」 2013・12・2

 「久しぶりに『蒼空』の蔵に行かない?」日曜日の午前、ポツリと妻が言う。今日は特に仕事がないようだ。天気もいいし、たまに日曜日に出かけるのもいいだろう。土曜日は大概はカルチャー野外講座の町歩きで疲れ、日曜には安息日にすることが多い。
 「蒼空」の蔵・藤岡酒造は年に2〜3回は訪れる。蔵との出会いは酒蔵訪問のエッセー集の第一回にかいたのでここでは割愛する。
 蔵が出来たのが11年前の平成14年。私達が初めて蔵を訪れ、「蒼空」に出会ってから8〜9年はたっている。
 妻は初めて「蒼空」を飲んだ時からすっかり蔵のファンになり、仕事が暇になった時、一人でフラリと蔵を訪れたりする。大阪出身で、気さくで話好きな女将さんと店内の「酒蔵BARえん」で飲んで語り合っていると時間がたつのを忘れると言う。
 午後3時前、藤岡酒蔵に着いた。
 蔵の土間の右側は「蒼空」のデコレーションとちょっとしたカウンターがあり、ここでも2〜3人なら椅子に座って酒が飲める。左側は畳の間で中央に囲炉裏がある。ここにも5〜6人は座れる。私達が時に気に入っているのは、その奥の「酒蔵BARえん」である。畳の間から腰掛けられる小さなカウンターが設けられている。女将さんや店員さんが前に立ち、好みの「蒼空」をグラスに注いでくれる。その向こうはガラス張りになっていて、正面に酒を仕込んだ大きなタンクが三つ並んでいる。タンクの上に通り道があり、時々杜氏さんがタンクの中をのぞきに来たりする。酒造りを真近に見ながら搾りたての「蒼空」が飲める。こんな蔵はお目にかかったことがない。この空間がなんともいいのだ。

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 「酒蔵BARえん」は客が入れ替わり、ちょうど空いていたが女将さんはいなかった。
 若女将が私達に酒を注いでくれた。
 「さっきまで居られたのですが・・・」と残念そうに言われた。
 「『純米生のかすみ酒』を下さい」最初の一杯を注文した。これは今までなかった酒だ。うすにごりで香りがよくとても美味しい。
 「私は特別純米・短稈(たんかん)渡船(わたりふね)生原酒を」妻が言う。「渡船」というのは酒米の名前だ。妻から少し飲ませてもらったが、これもやわらかい口当たりで旨味が口の中に拡がる。アテの山うに豆腐をチビチビ食べながら、次の酒を飲む。雄町という酒米の無濾過生原酒。新商品だと言う。少し渋みがあって、常温で飲んでも美味しい。妻は山田穂産・純米吟醸を飲んでいる。キリッとした味わいの酒だ。

蒼空2.JPG

 「今は新酒の仕込みの時期で忙しいでしょう」無口な若女将に語りかけた。
 「ハイ、杜氏1人、蔵人1人、アルバイト2人の4人でお酒を造っています。」
 「息子さんはいくつになられましたか?」
 「来年小学校に上がります。」
 私達が初めて来た時には主人の正章さんはまだ独身で、女将さんが「いいお嫁さんはいませんか」とこぼしていた。
 「息子がやっと結婚してくれました」
 次の年、うれしそうに女将さんが報告されたのを思い出す。
 「蒼空」との付き合いも長い。
 「タンクはこの奥に2つ出来て5つになりました」若女将が言う。
 それでもたった5つのタンクで主人の正章さんは、精魂込めて美味しい「蒼空」を造り続ける。数少ないのであまり居酒屋で見かけることはない。
 「青空を見上げるとホッとできるように、飲んだ人が優しい気持ちになれるようなそんなお酒を造りたい」
 正章さんの酒造りの心と「蒼空」の名の由来である。
 時々、フッと「蒼空」が飲みたくなり、私達はフラリと伏見に向かう。

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2013年11月04日

「ならまちの地酒『春鹿』」 2013・10・14

妻が秋の遠足の下見で奈良公園に行くと言う。「近くに酒蔵があるなら一緒に行ってもいいで」「ならまち近くに『春鹿』の蔵がある」「よし、それなら行こう」
 10月半ば、3連休の中日、天気も良さそうだ。
 奈良公園は家族連れや若いカップル、外国人観光客で賑っていた。
 興福寺の南東にある浮見堂、東大寺、南大門東の広場、二ヶ所の下見をし、タクシーで「春鹿」の酒蔵・今西清兵衛商店に行く。
 蔵の隣に今西家書院がある。見学は後にして、先に酒蔵に行く。

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 中に入ると広い土間があり、十数人の客が試飲している。そばの椅子に座り、待っている人も数人いる。隅に受付があるので試飲を願い出た。
 「お一人400円です。しばらく待ってもらわなければなりませんがよろしいですか?」
 若い男性の店員が言う。
 待っている間、店内を見て回る。古い商家を改築し、高い天井に黒々とした太い棟木が貫いている。天井近くの壁に数々の賞状を収めた額が並び、その中央に鹿の首の剥製が飾られている。窓際には「春鹿」のいろいろな種類の酒瓶が並び、酒器や「春鹿」グッズの土産物がずらりと置かれている。

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 待っている間にも次々に何人かのグループが蔵を訪れる。和服姿の男女、外国人のカップル、結構若者が多い。
 ようやく試飲テーブルに呼ばれた。
 大きな酒樽のふたを半円形に切り、テーブルにしている。それらがぐるりと円形に並べられ、試飲カウンターになっている。中に若い女性店員が二人入り、周りの客に酒をつぐ。
 「今から5種類のお酒を飲んでもらいます」テーブルに1番目から5番目までの酒のラインナップを記したパネルが置かれてた。
 「『春鹿』といえばまずこれです」店員はそう言って「超辛口純米」を緑色の可愛いグラスについだ。これは居酒屋でよく見かける酒だ。スッキリとキレが良く、のどごしもいい。
 二番目は「純米吟醸・而(じ)妙(みょう)酒(しゅ)」。最高金賞の酒だという。やわらかい口当たりで香りもよい。ほのかな甘みが口の中に拡がる。「これは美味しい」超辛とは全然違う趣である。
 三番目に「極味(ごくみ)」という本醸造酒がつがれた。

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 「燗にすると旨味がでます。おでんやお鍋に合わせるといいと思います」店員の女性が説明する。グラスは小さいので二口ぐらいで飲んでしまう。隣は若い男女で、チケットは一人分だけである。女性がグラスの大半をグイッと飲み、残りを夫らしき男性がチビリと飲んでいる。
 「山廃純米生原酒・木(き)桶(おけ)仕込になります」四つ目の酒だ。「今までの中でこれが一番いい」私がメモをとっている間に妻はサッと飲み、つぶやいた。酸味と香りがあり、サラッとした味わいだ。
 「ワイン感覚のお酒です」店員が補足する。
 最後につがれたのは「純米吟醸生原酒」である。2012年銀賞受賞と説明パネルにある。「零下貯蔵で210日熟成したお酒です」店員が自慢気に述べる。フルーティな味わいで少々甘ったるい。「食前酒にいいかも」ぐいぐい飲める酒ではない。
 一通り酒を味わった後、蔵で作られた奈良漬が出された。途中で「アテに奈良漬を食べてもよろしいか?」と店員に言ったが「お酒の味が分からなくなるので、奈良漬は最後です」と言われていた。
 「おまけにスパークリングのお酒があります」店員がニッコリ笑いながらもう一杯ついでくれた。ピリピリとした口当たりで、シャンパンのようだ。
 「自然発酵のお酒です」
 「春鹿」にこれ程多くの種類の酒があるとは知らなかった。今まで少し米っぽい味の酒だというイメージがあったが、どれもそんなことはなく、結構美味しかった。
 「唎(き)き酒グラスはお持ち帰りください。」400円で6種類も飲ませてもらい、グラスがプレゼントにつくなら高くはない。十分満足した思いで4番目の山廃純米生原酒の四合瓶を土産に買い蔵を出た。
 相変わらず客は次々と訪れ、試飲カウンターに集まって来る。
 知る人ぞ知る酒通の「ならまち観光スポット」になっているようだ。
 帰りの電車の中で妻が試飲グラスを取り出し、しばらく眺めていたが突然つぶやいた。
 「グラスの底に鹿の絵が刻まれている」
 なかなか粋なことをする蔵だ。いい記念になったと思った。

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「奈良・三輪の酒『三(み)諸杉(もろすぎ)』」2013.9.25

 9月の下旬、三連休の最終日、妻が酒蔵に行こうと言う。
 「できたら彼岸花が見られる所がいい」
 しばらくの間、妻はパソコンで酒蔵を検索していた。
 「三輪山の麓に『三諸杉』というお酒の蔵がある。このお酒、確か福島区の『吟蔵』で飲んだ」「そこにしよう」近くの山の辺の道に彼岸花が咲いているだろう。蔵に電話すると店は開いているという。

 お昼過ぎJR桜井線・三輪駅に着いた。
 駅前の食堂で三輪そうめんの「にゅうめん」を食べる。本場だけに上品な味で美味しい。酒蔵は後にして、先に彼岸花探しに出かける。三輪山の麓にある大神(おおみわ)神社拝殿前を横切り、南北に山の辺の道が延びている。
 大神神社から少し北に行った展望台の山裾に彼岸花の群生を見つけた。

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シャキッと真っすぐに伸びた茎の先に炎のような赤い花が見事に咲いている。「これはすばらしい!満足満足」妻は感嘆の声をあげ何枚も写真を撮っている。
 展望台からの眺めも素晴らしい。正面に耳成山、その先に畝傍(うねひ)・香具山の大和三山が見渡せ、その手前の三輪の山里には大神神社の大鳥居がくっきりと見える。「三諸杉」の今西酒造はあの大鳥居の近くの集落にある。
 展望台下にある「知恵の神様 久延彦(くえひこ)神社」に参った後、今西酒造へと向かう。

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 大神神社の参道を下り、JR桜井線の南側に拡がる古い集落へと入った。
 重厚な構えの池田家、低い軒に長い出格子がある柴田家など昔から続く旧家が点在している。いずれも元は酒蔵だったという。
 日本で最初の市場「海(つ)石榴(ばい)市(ち)」があった恵比寿神社近くに今西酒造を見つけた。

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 女将さんが出てこられ、「杜氏がいないので今日は蔵見学はできません」と申し訳なさそうに言う。すぐに「三諸杉」のいろいろな造りの酒を持って来て、テーブルに並べた。
 「一つ一つ味わってみてください。三輪山の伏流水で造ったお酒です」一本一本試飲用の盃につぎながら酒米の違いについて説明された。
 「これは大和復活米・露葉風というお米で造ったお酒です」純米吟醸や生原酒「切(きり)辛(から)」という銘柄の純米酒など次々に味わった。どれもスッキリとした味わいで微妙に味が違う。「菩堤酛(ぼだいもと)三諸杉」という酒は地元の居酒屋「神水」で飲んだことを思い出した。
 「250年前に創業した古い蔵で、戦時中は途絶えていたのですが、戦後復興しました。昔は三軒の蔵があったのですが今はウチだけです」
 「『三諸杉』と書きますが「ミモロスギ」ではなく「ミムロスギ」と呼ぶのはどうしてですか?」
 さっきから気になっていたことを尋ねた。
 「大神神社の御神体である三輪山は、古くは三(み)諸山(むろやま)と呼ばれていたのです。疫病や災いがあった時、酒を供え国家安泰を祈願すると、災いは去り国は富み始めたといいます。三諸山から湧き出る神の水で醸した酒ということで有難い名前を頂きました」
 いい話を聞いた。三輪の里で造られる「三諸杉」を応援しようと思う。
 「頑張っていいお酒を造って下さい」女将さんにそう言い、土産に「露葉風・純米吟醸」と「雄町・純米吟醸ひやおろし」の四合瓶を買った。
 帰りに駅のホームから三輪山を眺めた。黄金の稲田の向こうに見える三輪山は、いっそう神々(こうごう)しく、美しい姿でそびえていた。

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